『賭博堕天録カイジ』における4000万を賭けた村岡との17歩対決で、カイジは驚異的な嗅覚で村岡の当たり牌をビタ止めしましたが、実は当たり牌である4sを切ったほうが良かったんじゃないか?という趣旨の記事です。
※作品の内容を批判する意図はありません。
※賭博堕天録カイジのネタバレを含みます。
問題の状況

これがその勝負における村岡の手牌です。ドラは2pです。1-4m 1-4s 待ちですが、見ての通り4sでロンすると三色がなくなるため、リーチドラ1止まりで満貫縛りの条件を満たせません。よってカイジが4sを切れば村岡はフリテンとなり、以後カイジが何をどのような順番で切ろうと当たることはなくなります。
ではカイジ視点で4s切りを選べたのでしょうか。状況を整理しますと、カイジが和也から4000万を借り、レートも4000万に上がった直後の一戦です。カイジは高め四暗刻という素晴らしい手牌を貰いますが気の緩みから567pを床に落としてしまい、その後紆余曲折あるもなんとか567pを探し当て四暗刻をテンパイすることに成功。三好からのサインを一度は見過ごすも最終的に村岡の待ちは1-4sであるというサインを受け取ります。カイジは配牌終了直後からずっと手牌を伏せていたため村岡はカイジの待ちが何かわかっておらず、四暗刻に放銃する恐怖をこらえながら打牌をしていました。ところが8巡目、三好と前田の裏切りを察知したカイジはトイレに立ち、村岡に手牌を見られるのと引き換えに三好と前田の裏切りを確信します。そしてカイジは、(上記の手牌のように)1-4s以外の第三の待ちがあることを念頭に置きながら打牌を選択しているところです。
14巡目の時点で村岡の捨て牌はこう:

カイジの捨て牌はこう:

そして、カイジの打牌候補は以下の通りでした。

ここからカイジは驚異的な嗅覚で1mをビタ止めし、1p、發、中と通していくのですが、1p切りの時点でどうも4s切りが最善のように思います。以下、村岡の手牌パターンごとに4sの危険度を考えてみます。
その1: 11123sと手牌にあった場合
実戦のパターンをまずは考えてみます。11123sとあり4sが刺さったとすると、ピンフ、タンヤオ、チャンタ、一気通貫が全て否定されます。またカイジは10巡目にドラの2pを通しているためドラシャンポンも否定され、1mと1pが2枚見えにつき三色同刻もありません。よって4sでロンされた際に満貫あるとすれば「ドラ暗刻」「一盃口ドラドラ」「234三色」「三暗刻」「ホンイツ」のどれかしかあり得ません。一つずつ考えてみます。
ドラの2pが暗刻

このような牌姿ですね。4sが満貫に刺さるパターンとして最も多いと思いますが、残り3枚の2pを全て村岡が持っている必要があるため確率はかなり低いでしょう。
一盃口ドラドラ

このパターンも普通に存在しますが、ドラ暗刻よりさらに確率は低そうです。
234三色

このパターンは牌姿としては存在しますが、実戦ではまずあり得ません。なぜなら1mでロンした際に満貫ないからです。この時点では村岡は次戦も考えていたため、このような牌姿であれば三好は当然1m待ちもカイジに伝えたでしょう。1m待ちを隠す意味がないからです。
三暗刻

まず思いつくこのような牌姿は、確かに4sであがればリーチ發三暗刻で満貫ありますが、やはり1mでロンした際に三暗刻が崩れ、満貫に到達しないためあり得ないと言えます。4pではなくドラの2pが暗刻なら話は別ですが。


あり得るとすればこのような牌姿です。4sなら最低でもリーチ三暗刻(テンパネ)、1mならリーチ役牌チャンタまたはリーチジュンチャンで満貫となります。么九牌の暗刻が2種類必要で確率は低いですが、なくはありません。
ホンイツ

確かにこのような牌姿は想定可能です。しかし、当時村岡は次戦も考えていました。いくらなんでもメンホンの待ちを1-4sのみ三好に伝えさせることは、あり得ないとまでは言いませんがかなりあからさますぎてやりづらいのではないでしょうか。
以上より、村岡が11123sと持っている場合は、4sはドラ暗刻や一盃口ドラドラ、ひょっとしたら三暗刻やホンイツで刺さりうるが、かなり確率は低いと言えます。
その2: 23444sと手牌にあった場合
1-4sを含む多面待ちとなるパターンとしてこちらもありえますが、実はこのパターンは11123sの下位互換です。詳しくは割愛しますが、234三色は依然としてまずなく、チャンタがつかないことから三暗刻も否定され、ドラ暗刻、一盃口ドラドラ(、ホンイツ)の可能性のみ残ります。
なお4sでロンされるとタンヤオがつく可能性がありますが、カイジの残りの捨て牌候補に中張牌がほぼない(=村岡がカイジからの出あがりを狙っているなら、必然的に待ちの片割れは么九牌になる)ためあまり関係はないでしょう。
その3: 単純両面の場合
村岡に都合の良い手が入らず、仕方なく23sの単純両面で待っているパターンは牌姿としてはあり得ます。その場合、メンタンピンドラ1などにわざわざ自分から打ち込んでしまったら目も当てられません。
しかし考えてもみてください。村岡からしてみれば、8巡目まではカイジは四暗刻を張っているかもしれないが待ちがわからず、振れば1億6000万が吹っ飛ぶかもしれないという状況下での勝負でした。この状況下で、23sの単純両面で待ち、待ちの1-4sを馬鹿正直に三好に伝えさせることを村岡がするでしょうか? これはもうあり得ないと断言してしまって良いでしょう。少なくとも、再度ブラックコーヒーを三好に買いに行かせるなど何らかのアクションをとるに違いありません。実際に1m待ちがあったからこそ、和了っても満貫にすら届かない1-4sをあえてカイジに伝えて罠を張ったのです。
その4: その他の複合形
例えば村岡が2233444s(1234s待ち)と持っていて、4sでピンフやタンヤオがつくような形もなくはありませんが、このような多面張では待ちは必ずソーズになります。カイジの打牌候補にはソーズは既に14sしかありませんから、やはり三好が馬鹿正直に待ち牌を全て教えていることになり、まずあり得ないと言ってよいでしょう。
結論
以上の考察により、14巡目にカイジが1pを切ったところでは、4sを切るべきであったと結論付けたいと思います。1pは三色、チャンタ、ドラ暗刻、一盃口ドラドラのいずれでも当たりうる超危険牌です。例えば、本編では触れられていませんが以下のようなチャンタ形で当たる可能性もありました。

1pだけならまだしも、その後發と中(または1m)も切らなければならないことを考えると、ドラ暗刻などで当たる可能性があるとはいえ通してしまえば相手をフリテンにできる4s切りの方がまだマシだったと言えると思います。
カイジは次戦を見越していたのでは?
卓の外での4s切りのデメリットとして、裏切りに気づいていることを村岡陣営に悟られるというリスクがあります。確かに三好からのサインにかかわらず1mを止めて4sをぶった切れば、三好と前田の裏切りに気づいていて、1mが刺さりうると考えていることを告白するようなものです。
しかし、あの時点ではカイジは次戦から前田を追い出してガチンコ勝負することを想定していました。カイジが「前田残し」および例の細工の天啓を受けるのは16巡目に中を通した後です。総合的に考えて、やはりあの段階では4sを切って凌ぎ、次戦以降前田を追い出してガチンコ勝負するのが期待値最大の選択だったのではないでしょうか。
なんてことをもしカイジが考えて、クレバーに4sを切ったとしたら、おそらくその後村岡に負けていたことでしょうが……。
おまけ:次戦での手牌総入れ替えについて
結局上記の局は流局となり、次戦でカイジはあえて前田を残し、配牌終了直前に手牌をほぼ総入れ替えするという離れ業をやってのけました。この勝負でカイジが開けた山の牌全体(34牌)がこちらです。

入れ替え前の手牌がこちら。

そして入れ替え後がこちら。

ドラは6sです。
改めて見ると、結構変なことをやっているという印象を受けます。まず入れ替え前の手牌ですが、普通に考えれば南暗刻の代わりに567pを入れ、以下の手牌にした方が良いに決まっています。

7pであがれば一盃口がつきますし、何より南南南と567pでは安全度が違いすぎますから。もっともこれはカイジの陽動作戦の一貫であり、入れ替え後の手牌で567pを使いたかったのに加え、間違っても南単騎で待たれないようにするという意味合いがあったのでしょう。とはいえ、入れ替え前の手牌を見て「決まりだろあれで」と考えてしまう前田はボンクラ確定ですね。
そして入れ替え後の手牌ですが、2m片あがりの満貫テンパイとなってしまっています。これはちょっとおかしくて、以下のようにタンヤオをつけて満貫確定の2-5m待ちテンパイにもとれました。

もちろん、カイジとしてはノーテンを装って無警戒で打って欲しいわけで、入れ替えずに手牌に置いておく牌の数を最小限にしたかったのでしょうが、にしても5mで当たれないの痛すぎないか?と、普通の麻雀打ちとしては思ってしまいますね……。実際カイジは8mを自分で通しており、2mより先に5mが出てくる可能性は十分にありました。
ちなみに、安全(捨て牌候補に残るピンズの数)重視なら以下のカン3sテンパイの選択肢もありますね。
